・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・・。
「つっ・・・がぁっ・・・」
壇上には銃を手放して蹲るヨハンの姿。
オレはまだ、引き金を引いていない!?
「だから言ったでしょ・・・。今の十代くんには無理だって・・・」
「吹雪さん!・・・どうして?」
壇上のヨハンとは反対に位置する裾から吹雪さんが姿を現した。
ヨハンが構える拳銃を撃ち抜いたのは吹雪さんだった。
「十代くん!いいから早くこっちに来て。この子、限界だよ。早く介抱してあげるんだ」
吹雪さんに促され、オレは壇上へ駆け付ける。
右手を押さえ、蹲ったままのヨハンを吹雪さんが銃で威嚇している。
「じきにその手のプロが駆け付ける。その時この拳銃は十代くんのって事にしておいてね、ハハッ」
吹雪さんの指示に従い、まずは憔悴しきっているユベルを介抱した。
パイプイスに拘束していた白い包帯を解くと、ユベルはオレに抱き付いて泣き崩れた。
「うぇ・・・うぁ〜ん・・・」
この体育館に駆け寄る足音が響き、入口の方を振り向くと、そこには翔と万丈目の姿があった。
「十代ッ!」
「アニキ、大丈夫っスか!?」
二人はオレの名を叫びながら、壇上へ駆け付けてきた。
GXを辞めた後、二人と直接顔を合わすのは久しぶりだ。
「お前ら・・・どうしてここに?」
「通報があったんス。ボクの携帯に直接・・・。最初はガセネタか悪戯だと思ったんだけど、兄さんの名前とか、妙に辻褄の合う内容なんで、万丈目君と一緒に駆け付けてみたんだ」
「一人で無茶しやがって・・・」
「ホントホント。無茶したいならGXに戻ってくればいいのに」
吹雪さんの言っていた、その手のプロって・・・翔と万丈目だったのか。
「ねえ、キミ。それよりこの殺人鬼をさっさと逮捕してくれないかな」
「ああ・・・、あなたが通報してくれた人ですか?」
「って!?おい、貴様!手に何握り締めてるんだ!!」
「おやおや・・・これは十代くんから今だけ借りて手にしてるだけだよ。僕は真面目な一般人だし。ハハッ。ね、十代くん」
パチンと吹雪さんはオレにウインクする。
「ああ・・・この男の子を介抱する時に、オレから今、手渡したんだ・・・」
一応、話を合わせてみる。
「あ〜ぁ、やっぱりアニキって銃を隠し持っていたんスね・・・。でも、それって犯罪っスよ」
「本当にな。上手い事、揉み消しとくが・・・十代、今度焼肉でも奢れよ!」
「ああ・・・分かった。恩に着るぜ」
吹雪さんは銃の事を揉み消しやすいように翔と万丈目を呼び寄せてくれたのだろう。
この二人なら秘密は上手く誤魔化して処理してくれる。
観念したのか、俯いたままのヨハンに対して万丈目が身柄を押さえに入った。
「おい!貴様・・・名前、住所と職業は?」
「よはん・・・あんでるせん・・・」
「よはん・あんでるせんって・・・あ、コイツ!タレントのヨハン・アンデルセンだ!」
「まさか、『宝玉の輝き』とまで言われたタレントが殺人鬼だったとはな・・・」
万丈目はヨハンに手錠をかけ、立ち上がらせる。
「ヨハン・アンデルセン、殺人、銃刀法違反、その他の容疑ならびに誘拐監禁の現行犯で逮捕する」
ヨハンは抵抗する事なく・・・大人しく逮捕に応じた。
オレとは一言も言葉を交わさず、視線も合わさぬまま、万丈目に連行されていった。
「・・・ひぇ・・・っく・・・ひぃぐ・・・ヨ・・・ハン・・・ひぃ・・・く・・・」
泣きじゃくるユベルは翔が預かり、病院へ運ぶ事になった。
精神状態が心配だが、静養した後、重要参考人として取り調べを受ける事になるだろう。
こうして狂気の幕は閉じた・・・。
過ぎてみれば新たな被害者を出さずに済み、徒労感だけが漂う。
ヨハンが万丈目に連れられ姿を消した今・・・今夜の出来事は、悪い夢だったんじゃないか・・・と思った。
目が覚めた時にはベッドの上で・・・ヨハンとユベルと、いつもの朝食を迎えられるような・・・そんな錯覚を感じてさえしまう・・・。
「あの子・・・大丈夫かなぁ・・・。実のアニキに命を狙われたんだ。心の傷は簡単に癒えやしないだろうな・・・」
狂気の舞台に残った、吹雪さんが呟いた。
吹雪さんの言う通り。
ヨハンを親愛していたユベルの心の傷は簡単に癒せやしないだろう・・・。
・・・。
「そういえば・・・吹雪さん。どうしてここが分かったんだ?」
ふと浮かんだ疑問を吹雪さんに聞いてみると、吹雪さんはニカッと笑いながら得意気に答えた。
「ハハハッ。それ、それだよ。十代くんが首から下げてるカッコいいロケット。・・・それに発信機と無線の盗聴器を仕掛けておいたのさ。十代くん一人じゃ心配だったからね」
このロケット!?
慌てて蓋を開け、吹雪さんの写真を剥がすと小型の機械が見つかった。
・・・。
やられた・・・。
動揺していたオレの気を、沈める小道具だとばかり思っていたのに。
あの時は、このロケットを渡されただけで随分と冷静さを取り戻せた気になっていたけど、あの短時間の中で、さまざまな可能性を危惧してオレの居所と状況を把握する為に発信機と盗聴器を仕込んでいたなんて・・・。
さすがは闇の住人・・・か。
「だったら、一緒に追い駆けてくれれば良かったじゃないか!?」
一本取られた感じがして、ちょっぴり悔しくなり、オレは吹雪さんに毒づいた。
「ハハハッ。まぁ、結果的に上手くいったけどどうなるか分からなかったもん。もし危険な状況だったら逃げ出そうと思ってたしね。ハハッ」
吹雪さんは笑いながら、はにかんだ。
一緒に行動していれば、体育館に乗り込んだ時にヨハンが暴走していたかも知れない。
また、盗聴器で状況を正確に把握して体育館の裏口から壇上に忍び込み、契機を窺ってくれたからこそ無事に幕を降ろせたのだろう。
きっとここに来るまでの移動の間に翔と万丈目に連絡してくれていた。
銃の不法所持などオレたちが不利にならず、確実に法的処置がとれる人材・・・。
何から何まで完璧だ・・・。
「ところで、十代くん・・・。キミ、これからどうするの?」
これから・・・。
・・・。
・・・・・・?
「行く所ないなら・・・ボクの所でも来る?」
えっ・・・?
思いがけない突然の誘いに耳を疑い、吹雪さんを見つめ返すと、吹雪さんは薄っすら頬を赤らめ、テレている様子。
・・・。
吹雪さんの誘いを受ける
吹雪さんの誘いを断る